第3回:積分定理 — 線積分・面積分・ストークス・ガウスの定理 | Portfolio第3回:積分定理 — 線積分・面積分・ストークス・ガウスの定理
NOTE-019f50dd更新: 2026-07-11物理
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第3回:積分定理 — 線積分・面積分・ストークス・ガウスの定理
本記事は「一般相対性理論の学び直し」シリーズの第3回です。シリーズ全体の到達点は、アインシュタイン方程式を自力で導き、シュバルツシルト解から水星の近日点移動(約 43″/世紀)を計算することです。第2回では発散を「単位体積あたりの流束(流束密度)」、回転を「単位面積あたりの循環(循環密度)」として点ごとに特徴づけました。本回では、この局所的な特徴づけを有限の領域にわたって足し合わせ、境界での積分と内部での積分を結ぶ積分定理(発散定理・ストークスの定理)にまとめます。線積分・面積分の定義から出発します。
この回の流れ. 積分定理は、一言で言えば「境界で測った量」と「内部で測った量」を結びつける公式です。まず §1–§3 で、曲線・曲面に沿った積分(線積分・面積分)をパラメータ表示から定義します。§2 の勾配定理は、1変数の微積分の基本定理の多変数版と考えられます。§4–§6 では、平面のグリーンの定理を経て、3次元の発散定理・ストークスの定理へ進みます。いずれも「微小領域に分割して足し合わせると、内部の寄与が打ち消し合い、外側の境界だけが残る」という同じ骨格をもちます。§7 では、これらが保存場・ポテンシャル・領域の形(単連結性)とどう関わるかを整理します。
0. この回で学び直すもの
- 線積分・面積分(スカラー場・ベクトル場)をパラメータ表示に基づいて計算でき、向き付けの規約を述べられる。
- 勾配定理(線積分の基本定理)を、第1回の連鎖律から証明できる。
- 発散定理・ストークスの定理を正確に述べ、第2回の局所的特徴づけ(流束密度・循環密度)から、微小領域を足し合わせる形で導ける。外向き法線・右手の規約を正しく使える。
- 保存場・経路非依存・ポテンシャルの関係を、領域の単連結性という条件込みで説明できる。回転が消えても大域的には経路依存になり得ることを、原点を除いた平面上の例で示せる。
1. 線積分
線積分は、空間中の曲線に沿って量を足し合わせる操作です。スカラー場とベクトル場で定義が異なりますが、どちらも「曲線をパラメータ t で表し、t に関する1変数積分に帰着させる」という共通の骨格をもちます。
1.1 曲線と向き
曲線 C を、区間 からの滑らかな写像 、 で表します()。 が増えるにつれて点 が曲線上を動いていく、と考えます。各点で ()とし、必要なら区分的に滑らかとします。
[a,b]
r:[a,b]→R3 r(t)=(x(t),y(t),z(t)) パラメータ表示
r′(t)=0 正則
同じ曲線でも、t の増加方向(A→B)と減少方向(B→A)では積分の符号が変わることがあります。このため、曲線には向きを付けます。t の増加する向きを C の正の向きと定め、逆向きの曲線を −C と書きます。閉曲線では、進行方向の左手側(または右手側)に領域がある、といった規約で向きを統一します(§4、§6 で再登場します)。
1.2 スカラー場の線積分(弧長積分)
∫Cfds:=∫abf(r(t))∣r′(t)∣dt で定めます。ここで ds=∣r′(t)∣dt は弧長要素で、∣r′(t)∣ は点 r(t) における速さ(接線方向の動きの大きさ)です。ds は「曲線上の微小な長さ」に対応します。
直観. 曲線を「線分の集合」とみなし、各微小区間の長さ ds に、その点での f の値を掛けて足し合わせる操作です。例えば f が線密度(単位長さあたりの質量)なら、∫Cfds は曲線全体の総質量になります。
弧長そのものは向きに依らないので、∫−Cfds=∫Cfds です(符号は出ません)。
1.3 ベクトル場の線積分(仕事)
ベクトル場 F の C に沿った線積分を
∫CF⋅dl:=∫abF(r(t))⋅r′(t)dt で定めます。dl=r′(t)dt は接線方向の微小変位(ベクトル)です。内積 F⋅dl は、力 F が変位 dl に沿ってなす仕事の微小分に対応します。したがって ∫CF⋅dl は、曲線 C に沿って力 F がした仕事の総和です。
向きの影響. 向きを反転すると r′ の符号が変わるので、
∫−CF⋅dl=−∫CF⋅dl. スカラー場の線積分とは対照的に、ベクトル場の線積分は向きに依存します。
パラメータの取り方には依らない. 向きを保つパラメータの取り替え t=t(τ)(t′(τ)>0)に対しては値が不変です。実際、連鎖律(第1回)より dτdr=dtdrdτ なので、
∫F(r(τ))⋅dτdrdτ=∫F(r(t))⋅dtdrdt となります(dτ=(dt/dτ)dτ で dt に置換)。つまり線積分は曲線 C とその向きだけで決まり、パラメータの具体的な取り方(速さの違いなど)には依りません。
2. 勾配定理(線積分の基本定理)
1変数の微積分の基本定理は ∫abf′(t)dt=f(b)−f(a) でした。多変数では、被積分関数が「あるスカラー場の勾配」という特別な形をとるとき、同様の公式が成り立ちます。これが勾配定理(線積分の基本定理)です。
ベクトル場 F が、C を含む開集合上で F=∇φ(あるスカラー場 φ の勾配)と書けるとする。C が点 A から点 B へ向かう区分的に滑らかな曲線なら、
∫C∇φ⋅dl=φ(B)−φ(A).
意味. 左辺は曲線に沿った仕事(線積分)ですが、右辺は端点の φ の値の差だけで、途中の経路には現れません。φ を「ポテンシャル」とみなせば、仕事はポテンシャル差に等しい、という物理的な内容です。
証明. 証明の流れは次の3段階です。(1)線積分をパラメータ表示に書き下す。(2)被積分関数を、曲線に沿った φ の t 微分に変形する(第1回の連鎖律)。(3)1変数の微積分の基本定理で積分を評価する。
(1)パラメータ表示. 曲線 C を r:[a,b]→R3、r(a)=A、r(b)=B とパラメータ表示します(§1.3)。ベクトル場の線積分の定義より
∫C∇φ⋅dl=∫ab∇φ(r(t))⋅r′(t)dt. ここで r′(t)=(x′(t),y′(t),z′(t)) は接線ベクトル(速度)で、dl=r′(t)dt は微小変位に対応します。
(2)連鎖律による変形. 被積分関数 ∇φ(r(t))⋅r′(t) を成分ごとに展開します。勾配 ∇φ の i 成分は (∇φ)i=∂φ/∂xi(第2回)なので、内積は
∇φ(r(t))⋅r′(t)=i=1∑3∂xi∂φ(r( 右辺は、多変数関数 φ を曲線 r(t) に沿って 1 変数関数 t↦φ(r(t)) に制限したときの t 微分そのものです。第1回 §4.1 の連鎖律(曲線に沿った微分)より
dtdφ(r(t))=i=1∑3∂xi∂φ(r( ゆえに ∇φ(r(t))⋅r′(t)=dφ/dt となります。第2回で見た df=∇φ⋅dr(微小変位に対する φ の変化)を、曲線に沿って積分する形にしたものがこの等式です。
(3)微積分の基本定理. 上の結果を積分に代入すると
∫C∇φ⋅dl=∫abdtdφ(r(t))dt. 被積分関数が t↦φ(r(t)) の導関数になったので、1変数の微積分の基本定理をそのまま適用できます。
∫abdtdφ(r(t))dt=φ(r(b))−φ(r(a))=φ(B)−φ(A).■ 系. 上の等式の右辺は端点 A,B だけに依存し、途中の曲線 C の形には現れません。したがって勾配場 ∇φ の線積分は経路非依存です。特に閉曲線(始点と終点が一致する、A=B の曲線)では φ(B)−φ(A)=0 なので
∮C∇φ⋅dl=0. 3. 面積分
面積分は、空間中の曲面にわたって量を足し合わせる操作です。線積分と同様、スカラー場用とベクトル場用の2種類があります。曲面にも向き(法線の向き)を付ける必要があり、これが後の積分定理の符号規約につながります。
3.1 曲面のパラメータ表示と面積要素
曲面 S を、平面領域 D⊂R2 からの写像 r:D→R3、r(u,v) で表します(パラメータ表示)。(u,v) が D 内を動くと、点 r(u,v) が曲面 S 上を動きます。
接ベクトルと面積. u だけ、あるいは v だけを動かしたときの点の動く向きを
ru=∂u∂r,rv=∂v∂r と書きます(接ベクトル)。ru と rv は曲面の接平面内の2本の独立なベクトルです。正則性として ru×rv=0 を仮定します(曲面が退化していないこと)。
(u,v) を微小に動かすと r(u,v) は平行四辺形を張ります。その面積は外積の大きさ ∣ru×rv∣dudv です(外積の幾何学的意味:2ベクトルが張る平行四辺形の面積)。したがって面積要素を
dS=∣ru×rv∣dudv と定めます。ベクトル ru×rv は曲面に垂直な方向を向き、その大きさが微小面積に等しくなります。
3.2 スカラー場の面積分
∫SfdS:=∬Df(r(u,v))∣ru×rv∣dudv. 直観. 曲面を微小パッチに分割し、各パッチの面積 dS にその点での f の値を掛けて足し合わせます。例えば f が面密度なら、曲面全体の総質量になります。スカラー場の面積分は法線の向きには依りません。
3.3 ベクトル場の面積分(流束)と向き付け
ベクトル場の面積分では、曲面に向き(法線の向き)を付ける必要があります。
向き付け. 向き付け可能な曲面には、連続な単位法線場 n を一つ選びます(これが向き付けです)。閉曲面(球など)では、領域の外側を向く外向き法線を正にとるのが慣習です。
流束. ベクトル場 F が曲面 S を「通り抜ける量」を測る積分を流束と呼び、
∫SF⋅dS:=∫SF⋅ndS で定めます。F⋅n は法線方向成分の大きさで、「その面素を法線方向に通過する流れの強さ」に対応します(第2回の発散の直観と一致します)。
パラメータ表示での計算. 法線 n を ru×rv の向きにとると、dS=ndS はベクトル (ru×rv)dudv と一致します。よって
∫SF⋅dS=∬DF(r(u,v))⋅(ru×rv 向き(n の符号)を反転すると流束の符号が変わります。発散定理・ストークスの定理では、この向きの規約が左右の符号を一致させるために重要です。
4. グリーンの定理(平面)
3次元の積分定理に入る前に、平面 xy 上の特別な場合を扱います。グリーンの定理はストークスの定理の平面版であり、証明の骨格(境界の線積分と内部の面積分を結ぶ)が最も見やすい例です。
D⊂R2 を区分的に滑らかな単純閉曲線 C=∂D で囲まれた領域とし、C を正の向き(反時計回り、進行方向の左手に D がある向き)にとる。C を含む開集合上で C1 級の関数 P,Q に対して
∮C(Pdx+Qdy)=
意味. 左辺は境界 C に沿った線積分(F=(P,Q) の仕事)です。右辺は領域 D 内部での「回転の z 成分」∂Q/∂x−∂P/∂y を面積分したものです。つまり「境界を1周した循環」が「内部の回転の総和」に等しい、という内容です(§6 のストークスの定理の2次元版)。
正の向きの確認. xy 平面上で反時計回りに進むとき、左手側に領域 D があります。後のストークスの定理では、曲面の法線 n=z^ とこの境界の向きが右手の規約で整合します。
証明(単純な領域の場合). まず D が縦線領域(上下の境界が y=g1(x)、y=g2(x) で与えられる形)
D={(x,y):a≤x≤b, g1(x)≤y≤g2(x)} (i)面積分の計算. y 方向に偏微分してから x 方向に積分します(累次積分)。1変数の微積分の基本定理を y に適用すると
∬D∂y∂PdA= (ii)境界の線積分. 次に ∮CPdx を境界に沿って評価します。縦線領域の境界は4辺からなります。
- 下辺 y=g1(x)(x が a から b へ、左→右):dy=0 なので Pdx のみ。寄与は +∫abP(x,g1(x))dx。
- 上辺 y=g2(x)(x が b から a へ、右→左): の符号が反転するので 。
- 左右の垂直辺(x=a、x=b):x が一定なので dx=0。寄与なし。
∮CPdx=∫abP(x,g1(x))dx−∫ (iii)Q について. D を横線領域(左右の境界が x=h1(y)、x=h2(y))と見て、同様の計算をすると
∮CQdy=∬D∂x∂QdA ∮C(Pdx+Qdy)=∬D(∂x∂Q−∂y∂P)dA 一般の領域. 領域 D がもっと複雑な形でも、縦線領域・横線領域に分割できます。分割線(内部の境界)は、隣接する2つの部分領域で逆向きに1回ずつたどられるため、線積分が打ち消し合います。残るのは外側の境界 C=∂D だけです。■
5. 発散定理(ガウスの定理)
発散定理は、3次元の閉領域について「境界を通る総流束」と「内部の発散の総和」を結びます。第2回で発散を流束密度とみなした直観を、有限の体積に拡張したものです。
有界領域 V が区分的に滑らかな閉曲面 ∂V を境界にもち、n をその外向き単位法線とする。V を含む開集合上で C1 級のベクトル場 F に対して
∮∂VF⋅ndS=∫
意味. 左辺は閉曲面 ∂V を通る流束の総和(外に出ていく量)です。右辺は領域 V 内部の発散 ∇⋅F(第2回:単位体積あたりの流束密度)を体積積分したものです。「外に出た総量」=「内部で生じた(または消えた)総量」という保存則の形です。
導出(微小セルの総和). 第2回で、発散を点 p における流束密度として
(∇⋅F)(p)=ΔV→plimΔV1∮∂(ΔV)F⋅ndS と特徴づけました。微小な体積 ΔV について、境界を通る流束はおよそ (∇⋅F)ΔV です。
分割と打ち消し. V を微小な直方体(セル)に分割し、各セルについて
∮∂(cell)F⋅ndS≈(∇⋅F)ΔV を全セルにわたって和をとります。ここで重要なのは、隣り合う2つのセルが共有する内部の面です。一方のセルから見れば外向き法線は +n、隣のセルから見れば −n なので、同じ面を通る流束は +F⋅n と −F⋅n で打ち消し合います。
残るのは、どのセルにも属さない外側の面、すなわち ∂V を構成する面だけです。ゆえに
cells∑∮∂(cell)F⋅ndS=∮∂VF⋅ndS. 左辺の和は ∑(∇⋅F)ΔV で、セルを細かくする極限で ∫V∇⋅FdV になります。以上より定理を得ます。■
この議論は直観的な導出です。厳密には極限操作と境界の正則性に注意が要りますが、要点は「内部の面の流束は隣接セルどうしで打ち消し合い、外側の境界だけが残る」ことにあります。グリーンの定理の「分割線で打ち消し合う」と同じ構造です。具体的な確認は演習2で行います。
6. ストークスの定理
ストークスの定理は、曲面とその境界について「境界の循環」と「内部の回転の総和」を結びます。発散定理の「面」版と考えられ、グリーンの定理の3次元一般化です。
向き付けられた区分的に滑らかな曲面 S が、区分的に滑らかな閉曲線 ∂S を境界にもつとする。S の単位法線 n と境界 ∂S の向きは右手の規約で整合させる(右手の親指を n に向けると、残りの指の向きが ∂S の正の向き)。S を含む開集合上で C1 級の F に対して
∮∂SF⋅dl=∫S
意味. 左辺は境界 ∂S を1周したときの線積分(循環)です。右辺は曲面 S 上の回転 ∇×F の法線成分を面積分したものです(第2回:単位面積あたりの循環密度)。「境界の循環」=「内部の回転の総和」という内容です。
右手の規約. 曲面の法線 n と境界の向きは、独立に選ぶと符号が合いません。右手の親指を n に向けたとき、曲げた4本の指が指す向きを境界の正の向きとします。xy 平面上で n=z^ なら、境界は反時計回り(§4 の正の向き)になります。
導出(微小パッチの総和). 第2回で、回転の法線成分を点 p における循環密度として
(∇×F)⋅n(p)=ΔA→plimΔA1∮∂(ΔA) と特徴づけました。微小な面積 ΔA について、境界の循環はおよそ (∇×F)⋅nΔA です。
分割と打ち消し. S を、向きを揃えた微小パッチに分割し、各パッチについて
∮∂(patch)F⋅dl≈(∇×F)⋅nΔA を全パッチにわたって和をとります。隣接する2つのパッチが共有する内部の辺は、一方では A→B、他方では B→A と逆向きに1回ずつたどられるので、線積分が打ち消し合います。
残るのは外側の境界 ∂S です。ゆえに
patches∑∮∂(patch)F⋅dl=∮∂SF⋅dl. 左辺の和は ∑(∇×F)⋅nΔA で、パッチを細かくする極限で ∫S(∇×F)⋅ndS になります。以上より定理を得ます。■
グリーンの定理との関係. S を xy 平面内の領域 D、法線を n=z^ にとると、
(∇×F)⋅z^=∂x∂Fy−∂y∂Fx,F⋅dl=Fxdx+Fydy となり、ストークスの定理はグリーンの定理(P=Fx, Q=Fy)に一致します。つまりグリーンの定理は、平面版のストークスの定理です。具体的な確認は演習3で行います。
7. 保存場・ポテンシャル・単連結性
勾配定理とストークスの定理を合わせると、ベクトル場の性質と領域の形の関係が見えてきます。
順方向(勾配場なら回転は消える). 第2回で ∇×(∇φ)=0(勾配の回転は消える)を見ました。勾配定理(§2)と合わせると、勾配場 F=∇φ は
- 回転が消える(∇×F=0)
- 経路非依存(閉曲線で ∮=0、端点だけで線積分が決まる)
逆方向(回転が消えれば保存場か?). 問題は逆です。「∇×F=0 ならば、必ず F=∇φ となるポテンシャル φ が存在する(保存場である)か」——答えは領域の形に依存します。
領域 U が単連結(内部の任意の閉曲線を U の中で連続的に1点へ縮められる)であり、U 上で ∇×F=0 ならば、U 上に F=∇φ となるスカラー場 φ(ポテンシャル)が存在する。
単連結性の直観. 「穴のない」領域です。平面上の円板や R3 全体は単連結ですが、原点を除いた平面 R2∖{0} は単連結ではありません(原点という穴があり、原点を囲む閉曲線を1点に縮められない)。
ストークスの定理との関係. 単連結な領域 U 内の任意の閉曲線 C について、C を境界とする曲面 S を U 内に張れます。∇×F=0 ならストークスの定理より
∮CF⋅dl=∫S(∇×F)⋅ndS=0. よって任意の閉曲線で線積分が0になり、経路非依存です。単連結でないと「穴」をまたぐ閉曲線に対して張れる曲面が領域内に存在せず、この議論が使えません。
反例(単連結でないと崩れる). 平面から原点を除いた領域 U=R2∖{0} 上の場
F=(x2+y2−y, x2+y2x) は、原点以外の各点で ∇×F=0 です(演習4)。ところが原点を囲む閉曲線(単位円など)に沿うと ∮CF⋅dl=2π=0 です(演習4)。
なぜこうなるか。F は局所的には極座標の角度 θ=atan2(y,x) の勾配(F=∇θ)です。しかし θ は原点を反時計回りに1周するごとに 2π 増える多価関数であり、U 全体で一貫した一価なポテンシャルは存在しません。原点を囲む閉曲線は U の中で1点に縮められないため、ストークスの定理を適用できる曲面も U 内に張れません。
まとめ. 回転が消えることは局所的な性質、経路非依存は大域的な性質です。両者が一致するのは、領域が単連結のときに限られます。
双対(発散と回転). 第2回の ∇⋅(∇×A)=0 から、回転で書ける場 B=∇×A は発散が消えます。逆に、適当な領域で ∇⋅B=0 ならば、局所的に B=∇×A となるベクトルポテンシャル A が存在します(詳細は本シリーズの範囲外ですが、発散定理との関係は発散定理側と同型です)。
8. 応用:連続の方程式
積分定理が物理でどう効くかを、保存則の形で見ておきます。
ある保存量(質量、電荷など)の密度を ρ(x,t)、その流れを表すベクトル(電流密度など)を J(x,t) とします。空間に固定した領域 V の中の総量は ∫VρdV です。この総量の時間変化は、境界 ∂V から流れ出た分だけです(領域内で量が消滅・生成されないと仮定)。すなわち保存則は
dtd∫VρdV=−∮∂VJ⋅ndS です。右辺のマイナスは「外に出ていく分だけ内部の総量が減る」ことを表します。
−∮∂VJ⋅ndS=−∫V∇⋅JdV. 左辺の処理. V は時間とともに形を変えない(空間に固定)ので、積分と時間微分は交換でき、
dtd∫VρdV=∫V∂t∂ρdV. ∫V∂t∂ρdV=−∫V∇⋅JdV. V は任意の領域にとれるので、被積分関数は領域の各点で等しく、
∂t∂ρ+∇⋅J=0 を得ます。これが連続の方程式です。発散定理は、大域的な収支(境界の流束)と局所的な保存則(微分形)を橋渡しする役割を果たしています。
9. まとめ
積分定理の共通パターン. グリーン・発散・ストークスの各定理は、いずれも「境界での積分=内部での密度の積分」という形をもちます。微小領域に分割して和をとると、内部の寄与は打ち消し合い、外側の境界だけが残ります。
- 線積分 は ∫CF⋅dl=∫abF(r(t))⋅r′(t)dt で定義され、向きに依存し、向きを保つパラメータ変換には依らない(第1回の連鎖律)。
- 勾配定理 ∫C∇φ⋅dl=φ(B)−φ(A) は連鎖律から直ちに従い、勾配場の経路非依存性を与える。
- 面積分(流束) は ∫SF⋅ndS で定義され、法線の向きの選択に依存する。
- 発散定理 ∮∂VF⋅ndS=∫ と は、第2回の局所的特徴づけ(流束密度・循環密度)を微小領域について足し合わせ、内部の寄与が打ち消し合うことから得られる。グリーンの定理は平面版のストークスの定理。
- ∇×F=0 が保存場(ポテンシャルの存在・経路非依存)を意味するのは、領域が単連結のとき。単連結でないと、局所的に回転が消えても大域的には経路依存になり得る(原点を除いた平面上の角度場)。
10. 到達チェック
以下を白紙から(この記事を見ずに)再現できれば、この回は合格です。
- 線積分・面積分(スカラー/ベクトル)を定義し、向き付けの規約(外向き法線、右手の規約)を述べられる。
- 勾配定理を、第1回の連鎖律を使って証明できる。
- 発散定理・ストークスの定理を、第2回の局所的特徴づけから「微小領域を足し合わせ内部が打ち消し合う」筋道で導ける。
- 単連結でない領域で ∇×F=0 でも ∮=0 になり得ることを、具体例で説明できる。
11. 演習
演習 1. F=(2xy, x2) について、(a)F=∇φ となる φ を求めよ。(b)(0,0) から (1,1) までの線積分 ∫CF⋅dl を、直線経路と、経路 (0,0)→(1,0)→(1,1) の2通りで計算し、いずれも φ(1,1)−φ(0,0) に等しいことを確かめよ。
要点: φ=x2y。どちらの経路でも 1。
演習 2. F=r=(x,y,z) と半径 a の球 V について発散定理を確かめよ(両辺を計算せよ)。
要点: 球面上で F⋅n=a ゆえ左辺 =4πa3。∇⋅r=3 ゆえ右辺 =3⋅34πa3=4πa。
演習 3. F=(−y, x, 0) と、xy 平面内の半径 a の円板 S についてストークスの定理を確かめよ。
要点: 左辺 ∮ は円上で F⋅dl=a2 を積分して 2πa2。右辺は ∇×F=(0,0,2)、n=z^ ゆえ ∫S2dS=2πa2。
演習 4. F=(x2+y2−y, x2+y2x, 0) について、(a)(x,y)=(0,0) で ∇×F=0 を示せ。(b)単位円に沿った ∮CF⋅dl を計算せよ。(c)結果が「回転が消えれば保存場」という主張と矛盾しない理由を述べよ。
要点: (a)z 成分の計算で ∂xFy=∂yFx=(y2−x2)/(x2+y2)2 より 0。(b)2π。(c)定義域 R2∖{0} が単連結でないため。
発展演習(任意). F=(x3, y3, z3) について、単位球と単位球面で発散定理を数値的に確かめよ(両辺が 12π/5 に一致することを確認)。
次回
第4回は 曲線座標系(極座標・円柱座標・球座標)での微分演算 です。
d
t
t
))
dtdxi
(
t
)
.
t
))
dtdxi
(
t
)
,
)
d
u
d
v
.
∬D
(∂x∂Q−∂y∂P)
d
A
.
∫ab
∫g1(x)g2(x)
∂y∂P
d
y
d
x
=∫ab[P(x,g2(x))−P(x,g1(x))]dx.
dx
−∫abP(x,g2(x))dx
a
b
P
(
x
,
g2
(
x
))
d
x
=−∬D∂y∂PdA.
V
(
∇
⋅
F)dV.
(
∇
×
F)⋅
ndS.
F
⋅
d
l
V
∇
⋅
FdV
ストークスの定理
∮∂SF⋅dl=∫S(∇×F)⋅dS 3