第2回:ベクトル場と場の微分 — 勾配・発散・回転 | Portfolio第2回:ベクトル場と場の微分 — 勾配・発散・回転
NOTE-019f36db更新: 2026-07-06物理
一般相対性理論の学び直し数学ベクトル解析ベクトル場勾配発散回転
第2回:ベクトル場と場の微分 — 勾配・発散・回転
本記事は「一般相対性理論の学び直し」シリーズの第2回です。シリーズ全体の到達点は、アインシュタイン方程式を自力で導き、シュバルツシルト解から水星の近日点移動(約 43″/世紀)を計算することです。第1回で扱った全微分・連鎖律・偏微分の順序交換(シュワルツの定理)を土台に、スカラー場・ベクトル場に作用する微分演算子 grad, div, rot を定義し、それぞれの座標に依らない意味と、成分の変換のしかたを調べます。
0. この回で学び直すもの
- 勾配・発散・回転を定義に基づいて計算でき、それぞれの座標に依らない意味(方向微分、流束密度、循環密度)を述べられる。
- 勾配の成分 ∂i が、微分 の成分として第1回で見た「共変的に変換する量」であることを説明できる。
f
二階の恒等式 ∇×(∇f)=0、∇⋅(∇×F)=0 を、偏微分の順序交換(第1回)から導ける。 レヴィ・チヴィタ記号と ε-δ 恒等式を用いて、∇×(∇×F)=∇(∇⋅F)−∇2F を導ける。 1. 準備:場と記法
場. 領域 U⊂R3 の各点に実数を対応させる写像をスカラー場 f:U→R、各点にベクトルを対応させる写像をベクトル場 F:U→R3 と呼びます。F の成分を F1,F2,F3 と書きます。本回では当面、3次元デカルト座標 (x1,x2,x3)=(x,y, で議論します。
第1回からの接続. 第1回で、微分可能なスカラー場 f に対して全微分が
df=i=1∑3∂xi∂fdxi と書けること、そして成分 ∂f/∂xi が座標変換のもとで共変的に変換することを見ました。本回では、この ∂f/∂xi を素材として場の微分演算子を組み立てます。
ナブラ. 記法上の便宜として、微分演算子を成分にもつ形式的ベクトル
∇=(∂x∂, ∂y∂, ∂z∂) を導入します。これはあくまでデカルト座標に限った記法上の道具であり、∇ を「本物のベクトル」と考えると曲線座標で破綻します(座標系への依存は §6 で触れます)。
2. 勾配(gradient)
定義. スカラー場 f の勾配 ∇f を、デカルト座標で
∇f=(∂x1∂f, ∂x2∂f, ∂x3∂f),(∇f)i=∂xi∂f 微分との関係. 変位ベクトルを dr=(dx1,dx2,dx3) とすると、第1回の全微分は標準内積を使って
df=i∑∂xi∂fdxi=∇f⋅dr と書けます。つまり勾配は、微小変位 dr に対する f の変化量を内積の形で与えるベクトルです。
方向微分. 単位ベクトル u^(∣u^∣=1)方向の変化率を、直線 γ(t)=p+tu^ に沿った微分として定義します。第1回の連鎖律より
Du^f=dtdf(γ(t))t=0=i∑∂xi∂fu^∇f⋅u^. 最大増加方向. コーシー・シュワルツの不等式より ∇f⋅u^≤∣∇f∣∣u^∣=∣∇f∣ で、等号は u^=∇f/∣∇f∣ のとき成り立ちます。したがって、∇f は f が最も急に増加する方向を指し、その大きさ ∣∇f∣ が最大変化率に等しくなります。また ∇f⋅u^=0 となる方向、すなわち等位面(f= 一定)に接する方向では f は一次のオーダーで変化しません。よって ∇f は等位面に直交します。
勾配ベクトルと微分の区別(重要). 第1回で見たとおり、df は各点で定義された線形写像で、その成分 ∂if は共変的に変換します。一方ここで定義した「勾配ベクトル」∇f は反変ベクトルであり、厳密には df とは別種の対象です。両者はデカルト座標では同じ成分をもつため通常は区別されませんが、座標変換に対する成分の変換則が異なります。この違いは、直交でない座標や曲がった空間で本質的になります。当面のデカルト座標の議論では成分が一致するので同一視して進めますが、「勾配は本来、微分(共変ベクトル)から作られる」という点は意識しておく必要があります。
3. 発散(divergence)
定義. ベクトル場 F の発散を、デカルト座標で
∇⋅F=i=1∑3∂xi∂Fi=∂x1∂F1+∂x2∂F2+∂x3∂F3 座標に依らない意味(流束密度). 点 p を囲む微小な閉曲面 ∂V を考え、外向き単位法線を n、面積要素を dS とすると、発散は ∂V を通り抜ける流束の単位体積あたりの極限として特徴づけられます。
(∇⋅F)(p)=V→plim∣V∣1∮∂VF⋅ndS. これが上のデカルト表式に一致することは、微小直方体で確かめられます。x 方向に垂直な2面(x と x+Δx)を通る正味の流束は、面積 ΔyΔz に対して
[F1(x+Δx,y,z)−F1(x,y,z)]ΔyΔz≈∂x∂F1ΔxΔyΔz です(x での面は外向き法線が −x 方向なので符号が反転し、差になります)。y,z 方向も同様に足し、体積 ΔxΔyΔz で割ると ∑i∂Fi/∂xi を得ます。物理的には、F を流れの速度場と見たとき、その点からの正味の湧き出しの密度を表します。
例. 位置ベクトル場 F=r=(x,y,z) では ∇⋅r=∂x/∂x+∂y/∂y+∂z/∂z=3 です。
4. 回転(rotation / curl)
レヴィ・チヴィタ記号. 回転を簡潔に書くために、記号 εijk を導入します。(i,j,k) が (1,2,3) の偶置換なら +1、奇置換なら −1、いずれかの添字が重複すれば 0 と定めます。定義から εijk は任意の2つの添字の入れ替えで符号が変わる(完全反対称)量です。
定義. ベクトル場 F の回転を、デカルト座標で
(∇×F)i=j,k∑εijk∂xj∂Fk ∇×F=(∂x2∂F3−∂x です(行列式を形式的に展開した形と一致します)。結果はベクトル場です。
座標に依らない意味(循環密度). 点 p を含む微小な有向面 A を考え、その外向き単位法線を n とします。縁 ∂A を、右ねじの法則に従って(n の向きから見て反時計回りに)一周する向きで線積分をとったものを循環と呼びます。回転は、この循環の単位面積あたりの極限として特徴づけられます。
(∇×F)⋅n=A→plim∣A∣1∮∂AF⋅dℓ. 左辺は回転ベクトル ∇×F の n 方向成分です。面の向きを変えれば見える成分が変わりますが、ベクトル ∇×F 自体は座標系に依りません。
これが上のデカルト表式に一致することは、xy 平面内の微小長方形で確かめられます。頂点 (x,y)、(x+Δx,y)、(x+Δx,y+Δy)、(x,y+Δy) の長方形を、+z 方向を法線とする向き(反時計回り)で一周します。F の x,y 成分を F1,F2 と書き、各辺では F をその辺上の代表点で評価すれば、4辺の寄与は次のとおりです。下辺(y 一定)を +x 方向に進むと F1(x,y)Δx、上辺は −x 方向なので −F1(x,y+Δy)Δx、右辺(x+Δx 一定)は +y 方向で F2(x+Δx,y)Δy、左辺は −y 方向で −F2(x,y)Δy です。和をとると
[F1(x,y)−F1(x,y+Δy) です。面積 ∣A∣=ΔxΔy で割ると ∂F2/∂x−∂F1/∂y を得ます。これは §4 の成分表示における z 成分 (∇×F)z と一致します(デカルト座標では Fi=Fi なので添字の上下は区別しません)。
物理的には、流れの速度場 F に小さなパドルホイール(羽根車)を n 方向に軸を向けて置いたとき、どれだけ回り始めるかを表します。回転の大きさが大きいほど渦が強く、向きは右ねじの法則で ∇×F の方向に一致します。この局所的な回転の強さを渦度(vorticity)とも呼びます。
例(剛体回転). 角速度 ω(定ベクトル)で原点まわりに剛体が回転しているとき、位置 r にある点の速度は v=ω×r です。この速度場を F=ω×r とおき、回転を計算します。
まず外積の成分を書き下します。ω=(ωx,ωy,ωz)、r=(x,y,z) として
F=ω×r=exωxx(ωyz−ωzy, ωzx−ωxz, ωxy−ωyx) です。ω は定数なので、偏微分で効いてくるのは x,y,z だけです。
§4 の成分公式に代入します。F1=ωyz−ωzy、F2=ωzx−ωx、F3=ωxy−ωy として、
(∇×F)x(∇×F)y(∇×F) したがって ∇×(ω×r)=2ω です。
この結果は、先ほどの「回転=局所的な回転の強さ」という解釈と整合します。剛体全体が角速度 ω でくるくる回っているので、どの点でも渦度は 2ω(回転軸方向、大きさは角速度の2倍)になります。なお発散は ∇⋅(ω×r)=0 です(演習として確認できます)。剛体回転は「渦があるが湧き出しはない」典型的な場です。
5. 二階の演算子と恒等式
∇2f=∇⋅(∇f)=i=1∑3∂(xi)2∂2f をラプラシアンと呼びます。ベクトル場に対しては成分ごとに作用させ、∇2F の第 i 成分を ∇2Fi と定めます。
以下の恒等式は、いずれも**偏微分の順序交換(第1回のシュワルツの定理)**が鍵になります。まず補題を一つ用意します。
2つの添字 j,k について、Sjk が対称(Sjk=Skj)、Ajk が反対称(Ajk=−Akj)であれば ∑j,kAjkSjk。
証明. T=∑j,kAjkSjk とおき、和のダミー添字 j,k を入れ替えると T=∑j,kAk。ゆえに T=0。∎
恒等式1:∇×(∇f)=0(勾配の回転は消える).
[∇×(∇f)]i=j,k∑εijk∂xj∂j,k∑εijk∂xj∂x ここで ∂xj∂xk∂2f は f∈C2 のもとで j,k について対称(第1回)、εijk は j,k について反対称です。補題より和は 0。ゆえに ∇×(∇f)=0。
恒等式2:∇⋅(∇×F)=0(回転の発散は消える).
∇⋅(∇×F)=i∑∂xi∂j,k∑i,j,k∑εijk∂xi∂x ∂xi∂xj∂2Fk は i,j について対称、εijk は i,j について反対称です。補題より(k を固定して i,j の和をとると)0。ゆえに ∇⋅(∇×F)=0。
ε-δ 恒等式. レヴィ・チヴィタ記号の縮約について、次が成り立ちます(演習で確認)。
i∑εijkεilm=δjlδkm−δjmδkl. 恒等式3:∇×(∇×F)=∇(∇⋅F)−∇2F. 成分で計算します。
[∇×(∇×F)]i=j,k∑εijk∂xj∂F)k=j,k,l,m∑εijkεklm εijk=εkij(巡回置換)を使い、ε-δ 恒等式を和の添字 k について適用すると ∑kεkijε。したがって
[∇×(∇×F)]i=j,l,m∑(δ =[∇(∇⋅F)]i−∇2Fi. 第1項は δilδjm(l=i, m=j)から、第2項は δimδjl(m=i, l=j)から出ました。以上より ∇×(∇×F)=∇(∇⋅F)−∇2F。
6. 座標系への依存について
ここまでの成分公式(∇⋅F=∑i∂Fi/∂xi など)は、デカルト座標に固有のものです。曲線座標では表式が変わります(たとえば極座標の発散には座標に由来する因子が加わります)。一方、§3・§4で与えた極限による特徴づけ(流束密度・循環密度)は座標系に依らず、演算子そのものの定義として通用します。
勾配については、微分 df の成分 ∂if が、第1回で見たとおり共変的に変換します。成分公式が座標系ごとに形を変えるのに対し、「df という共変ベクトルから勾配が作られる」という構造は座標系に依りません。
7. まとめ
- 勾配 ∇f は (∇f)i=∂f/∂xi で定義され、df=∇f⋅dr、方向微分 Du^f=∇f⋅u^ を与える。∇f は最大増加方向を指し、等位面に直交する。成分は第1回で見た共変的に変換する量(df の成分)である。
- 発散 ∇⋅F=∑i∂Fi/∂x はスカラー場で、単位体積あたりの流束(湧き出しの密度)として座標に依らず特徴づけられる。
- 回転 ∇×F((∇×F)i=)はベクトル場で、単位面積あたりの循環(渦度)として特徴づけられる。
- 二階の恒等式 ∇×(∇f)=0、∇⋅(∇×F)=0 は、偏微分の順序交換(第1回)と の反対称性から従う。また は 恒等式から導かれる。
8. 到達チェック
以下を白紙から(この記事を見ずに)再現できれば、この回は合格です。
- 勾配・発散・回転をデカルト座標の定義式で書け、発散が流束密度・回転が循環密度であることを述べられる。
- ∇f が最大増加方向を指し、等位面に直交することを、方向微分とコーシー・シュワルツから説明できる。
- ∇×(∇f)=0 と ∇⋅(∇×F)=0 を、成分と偏微分の対称性から導ける。
- ε-δ 恒等式を用いて ∇×(∇×F)=∇(∇⋅F) を導ける。
9. 演習
演習 1. ∇×(∇f)=0 を、成分表示と偏微分の順序交換(第1回)を用いて示せ。
要点: [∇×∇f]i=∑j,kεijk∂j∂kf。∂j∂kf は j,k 対称、εijk は反対称。対称と反対称の縮約は 0。
演習 2. ∇⋅(∇×F)=0 を同様に示せ。
要点: ∑i,j,kεijk∂i∂jFk で、∂i∂j が対称・εijk が i,j 反対称なので 0。
演習 3. f=1/r(r=∣r∣, r=(x,y,z))について ∇f を求め、r=0 で ∇2f=0 を示せ。
要点: ∂x(r−1)=−x/r3 などから ∇f=−r/r3。∇2f=∑i∂i(− を計算すると各項 −r−3+3(xi)2r の和で、∑i(xi)2=r2 を使うと 0。
演習 4. ε-δ 恒等式 ∑iεijkεilm=δjlδkm−δjmδkl を用いて ∇×(∇×F)=∇(∇⋅F)−∇2F を導け。
要点: [∇×(∇×F)]i=∑εijkεklm∂j∂lFm に εijk=εkij と恒等式を適用。
発展演習(任意). 2次元回転場 F(x,y)=(−y,x) について、数値微分で発散と回転(z 成分)を計算し、解析値 ∇⋅F=0、(∇×F)z=2 と一致することを確かめ、場を可視化せよ。
次回
第3回は 積分定理(線積分・面積分とストークス・ガウスの定理) です。
z
)
i
=
3
∂F2
,
∂x3∂F1
−
∂x1∂F3
,
∂x1∂F2
−
∂x2∂F1
)
]
Δ
x
+
[
F2
(
x
+
Δ
x
,
y
)
−
F2
(
x
,
y
)
]
Δ
y
≈(−∂y∂F1+∂x∂F2)ΔxΔy
eyωyy
ezωzz
=
z
x
z
=∂y∂F3−∂z∂F2=∂y∂(ωxy−ωyx)−∂z∂(ωzx−ωxz)=ωx−(−ωx)=2ωx,=∂z∂F1−∂x∂F=∂x∂F2−∂y∂F
=
0
j
Skj
=
∑j,k(−Ajk)(Sjk)=
−T
∂xk∂f
=
k
∂2f
.
εijk
∂xj∂Fk
=
j
∂2Fk
.
(
∇
×
∂xj∂xl
∂2Fm
.
klm
=
δilδjm−
δimδjl
il
δjm
−
δimδjl)∂xj∂xl∂2Fm=
∂xi∂(m∑∂xm∂Fm)−
j∑∂(xj)2∂2Fi
i
∑j,k
εijk
∂j
Fk
ε
∇×(∇×F)=∇(∇⋅F)−∇2F ε-δ −
∇2F
xi
/
r3
)
−
5
3
=
∂z∂
(
ωy
z
−
ωz
y
)
−
∂x∂
(
ωx
y
−
ωy
x
)
=
ωy
−
(
−
ωy
)
=
2
ωy
,
1
=
∂x∂
(
ωz
x
−
ωx
z
)
−
∂y∂
(
ωy
z
−
ωz
y
)
=
ωz
−
(
−
ωz
)
=
2
ωz
.